飯椀プロジェクト vol.3 デザインの決定

制作を進めるにあたり、まずは、デザインの方向性を決定することに。

それにより、木地加工を含めたコストを算出して売価の目安を決め、発注者(喫禾了)と、制作者(色英一氏)との制作契約。

その後に試作品制作と進みます。

 

まず、デザイン案として、設計図の形で二案をご提示いただきました。

 

こちらは、いただいた設計図を打ち合わせ用に黒塗りしたもの。

それぞれのデザインについて、作家としてのねらいを伺ってみました。

(以下、色英一氏のコメントより)

 

A案

直径12cmほどで、大きさでいうと一般的ですが、少し特殊なフォルムをしています。

通常だと半球型(ボウル型)なものが多いですが、このデザインでは、筒形でありつつ、下に張りがあります。

ここは、南部鉄器の鉄瓶を意識したところがあります。

鉄瓶の、上が丸く、下がそぎ落とされているフォルムが、潔く美しく感じられたので。

 

そして、その美しさをさらに生かすために、高台の部分が見えにくいようなデザインにもなっています。実際の高台は側面に隠れて見えます。

高台の存在を感じさせない高台。

高台の前の折り返しに指がかかるので、持ちやすさといった機能も重視しています。

 

食べる時の機能としては、筒形になっていることで、口をつけやすく、例えば雑炊などをすする、という行為もしやすいと思われます。

 

B案

直径15cmほどと、径は広く、高さは低めになっています。

高台は、一般的な形状の高台ですが、やや狭めで高くしました。指の入りやすさのことも考え、18mmにしています。

一般的な飯椀のデザインからは少し離れるかもしれないのですが、こちらに関しては、いかに雅(みやび)に見えるか、ということを意識しました。

飯椀のふちが、外側に反ったデザインになっています。それにより、その部分がまるで額縁になるかのように、ご飯が器の中で美しい景色をつくる。そんなイメージです。

白くつややかなご飯を盛った時、器の余白がご飯を美しく演出する、余白が主役を引き立てる、そういった、既製品にはない遊びをいれました。

 

食べる時は、こちらは、すする行為はしにくいかもしれません。

食べる行為も、雅(みやび)に、ご飯をつまんで食べる、というのが合っていると思います。

 

以上がおもに、2つのデザインに関する色英一氏の解説でした。

 

こういった解説をいただく前に、筆者のほうでは、飯椀の歴史を少し調べてみました。

 

ある書籍の中で、「器の形状」と、「その器でどんなものを食べていたか」、ということが密接に関わりがある、とされていたのがとても面白く納得感があり、そして、意外にも、提示いただいた2つのデザイン案とリンクすることがありました。

 

まず、現代では、100%お米の米飯を主食ととらえるイメージが強いと思いますが、意外にも、日本人全体が米飯を常食、主食としてきた歴史は浅いようです。

 

明治時代の頃にさかのぼると、各地の農村では米飯はほぼ「ハレのごちそう」にかぎられており、それ以外の日常では、雑穀飯(粟、稗、麦など)、芋飯、大根飯など、米と畑作物を合わせた雑多な混ぜ飯や、雑炊が食べられていたようです。

こういった日常の飯は、白米だけとは違って、粘りが少なくボロボロとしやすい。

そのため、飯椀を口に近づける、もしくは口をつけて食べる、という行為をする必要があったようです。

となると、このころの飯椀は、そういった行為がしやすい、半球型(ボール型)だったのだとか。

 

現代に近づくにつれ、白米が常食となり、粘りのあるそのご飯をつまんで食べる、ということが可能に。そして、食生活が豊かになるにつれ、主食以外のおかずも増え、ご飯の量が減り、飯椀としては全体的に小ぶりになってきたようです。

ということから、口に近づけて食べることをあまり前提としない、逆円錐形のものも出現し、使われるようになってきた、ということです。

 

まさに、いただいたデザイン案のA案は、雑炊などをすすって食べることまで考えられた機能があり、B案は、白米をつまんで食べることが前提となっていました。

 

さてそれでは、どちらのデザイン案でいくか。

 

喫禾了のコンセプトは、「お米のある日常と、当たり前のことを尊ぶ」です。

この「当たり前のこと」というのは、本来するべきこと、あるべきこと、という意味で、そこには、食事に対する感謝の気持ちや、いただく際の礼儀や所作、道具を丁寧に扱うこと、といった意味がこめられています。

それと、色英一氏が言う、「雅(みやび)に食べる」という表現には、食事における礼儀や所作、がつがつとではなく、しっかりと味わいながら食事をいただく、というイメージが重なります。

 

それとやはり、「既製品にはないデザイン」というところから、手にされた方が、より「自分の器」として愛着を持ち、丁寧に接したいという気持ちが生まれるのではないかと思いました。

 

よって、デザイン案は、B案で進行することにいたしました。

仕上がりは、マットな黒の漆がほどこされる予定です。

 

色英一氏のコメントの補足ですが、

「おいしく見えること、美しさをめでることも、大事な栄養価だと思う」

とのことでした。

 

食事に向き合う気づきを器からも発信したい、という想いを、実現していただけそうで、今後の工程も楽しみです。

 

※Instagramの喫禾了のアカウント@kikkaryoでは、喫禾了と色英一氏とのライブミーティングを公開しています。

制作に関わるミーティングをライブ上で行っており、インスタライブ限定公開ですので、よかったら@kikkaryoをフォローしていただけましたら幸いです。

 

 

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