お米からできる調味料のひとつ、「米酢」についてです。
9月のはじめに、京都の宮津市にある飯尾醸造さんを訪ねました。
「富士酢」で知られる醸造元です。
はじめてこちらのお酢を味わったときの率直な感想は、
『なにこのお酢、まろやかでうま味がすごい!そしてお酢臭くない!!』
ツンとした刺激がなく、とはいえちゃんと酸っぱいのですが、口に入れた瞬間にまろやかなうま味がじわーっと広がります。
そして、お酢特有の発酵臭というのでしょうか、クセに感じる香りが無いのです。
ストレートに口に含んでもキツさがないということに驚きました。
特に、『富士酢プレミアム』というお酢はこの特長を強く感じます。(写真右)
この「富士酢プレミアム」は、例えば、手巻き寿司のようにお刺身を合わせる寿司飯ならば、
このお酢と塩だけで(砂糖なしで)味がおいしくまとまります。
仕上がりはしっかりとうま味のある、それでいて酸味の芯のある酢飯に。
(甘めがおいしいいなり寿司やちらし寿司などは、お砂糖入りにしても。)
これまで体感したことのなかった味わいのこのお酢。
どこでどんな風に醸されているのか、というお話がここから。
伺ったタイミングでは、蔵見学は通常行っておられないというところ、
たまたま運良くお話を伺うことができました。
ご案内いただいたのは、飯尾醸造さんの先代社長さま。
100年以上にわたる歴史の中で、四代目にあたる方です。
まずは、原料となるお米のお話。
お酢のしっかりとしたうま味の秘密は、お米の品質と使われている量にありました。
実は、飯尾醸造さんに伺う前に、お米づくりの圃場を見ることができました。
宮津湾を望む山野をかなり上がった、上世屋という場所に位置する棚田です。
それより上には田んぼはなく、普通ならばかなり不便に思われる場所です。
ここで、完全無農薬で栽培された、しかも、新米だけを原料にされているのだそうです。
なぜそんな場所でお米作りをされているのか。
ひとつは、お水の質。
山の上であるほど、他の田んぼや人為的な影響を受けず、自然の清らかなお水で生育できるからなのだとか。
そして、昔は数百世帯ほどあった農家さんが、世代を経て農業から離れ、農地が減ってゆく中、
なんとか地元の農業を守りたかったということから、この土地での原料米のお米作り始まった、とも伺いました。
おいしいお酢はおいしいお米から。
信頼できる人が育てた安心なお米を。
そして、地元の農業とのつながりを大切にしたい。
というお考え。そしてお酢づくりには、このお米がとても贅沢に使われています。
日本のJAS規格で米酢は、お酢1リットルに対して40g以上のお米が使われるという基準があります。
そこからすると、「富士酢」は5倍の200g、「富士酢プレミアム」に至っては、320gと8倍量に。
とても単純な質問をしました。
「コストも手間もすごくかかるのになぜ、そこまでの原料を使うのですか?」
お答えはとてもシンプルで
「どこにもない圧倒的な品質のものを作りたいからです」と。
お酢の味わいに感じた深いうま味の秘密です。
積み重ねられてきた技術と知見はもちろんのこと、
お米のチカラの偉大さも感じました。
ところで、お酢の作り方をものすごく簡単に言うと、
■お米と米麹、酵母菌からお酒(日本酒)を作る→■酢酸菌を合わせる→■酢酸発酵
という流れになりますが、この工程を(その以前の原料生産からも)すべて自社で行っておられるとのこと。
すべての製造工程を一貫して行っておられる蔵元は、今はとても稀少なのだとか。
そして、発酵の際は、手間と時間がかかる静置発酵という方法をとられています。
人為的に発酵を促すことはせず、そのまま置いて自然の発酵を待つ。
その時間が深い味わいを生み出すのだそうです。
季節による静置期間の違いなども伺いました。
気温の違いによって、タンクの中の循環が変わるのだそうで、発酵も自然とともに、です。
ご案内いただく中で、とても印象に残ったのは、
『仕事というのは誇りを持つということです』というお言葉。
そして、『やはり人は食ですよ』ということも。
食べたものが人をつくるのだから、自分が何を食べているのかを、ちゃんと見極めなければいけない、と。
研究を重ね、どんな材料でどう作るかを一貫して取り組まれながら、
おいしいお酢とは何か?を追求されているお姿に感銘を受けました。
何も知らずに味わっても、「おいしい」と感じる。そこにはやはり、深い理由と背景がありました。