京都府宮津市 世屋蔵の味噌づくりを継承したご夫婦

筆者が料理家として独立したての頃、当時アシスタントをしてくれていた、舞ちゃんという女の子がいました。

1年半ほど勤められたのち、デザイン系のお仕事を目指したいということで別の道へ。

その頃から数えて18年ほどのお付き合いになります。

 

その間、連絡を頻繁にはとらない時期もありましたが、ご結婚されて、ご実家のある京都に居を移された、ということは聞いていました。

そんな中、今からほんの2年ほど前。

「世屋蔵っていう、お味噌蔵を継いだんですー」という連絡。

 

まったく前ぶれもなかったお話だったので、驚きました。

 

なんでも、お住まいのある地域に古くからある、伝統の味噌づくりの蔵が、後継者を探していたところに手を挙げて、旦那さんと一緒に味噌づくりを引き継ぐ決意をしたのだ、と。

1年目のお味噌ができたので、味見してください、と、お味噌を送ってきてくれました。

           

 「伝統の作り方は守りながら、原料のお米と大豆を無農薬で、自分たちで生産するのにも挑戦してるんです。」

と聞いていたことがとても印象に残っていて、いつか、味噌づくりの現場を見てみたいなーと思ってたのでした。

 

そんな中、今年の8月末に、訪問させていただくことになり、行ってきました。

どんな土地で、どんな風にお味噌づくりをされているのか。そして、味噌蔵を継承したという背景にも、とても興味がありました。

 

訪問した先は、ご自宅と味噌蔵、米や大豆を作っている圃場のある、京都府宮津市というところ。

天橋立で知られる京都の日本海側に位置する場所です。

 

「どうやって行ったらいいかな?」と聞きましたら、

「東京からみて、京都駅は真ん中だと思ってください。」と。

つまり、東京から新幹線で京都駅まで約2時間。

そこから高速バスに乗って日本海側に進みさらに約2時間。

 

行ってみると、一番の印象は、海と山野の距離がすごく近い!ということ。

少し極端に言うと、目の前が海、そして後ろを見ると山野に畑や田んぼが広がっている、というイメージ。

よく、「海にも山にも近い良いところで」、という表現を聞きますが、こんなに近いところはあるのかな?と思うくらい、とにかくその距離が近い。

つまり、どちらの自然の恵みもごく近いところで得られる、ということです。

 

写真は、山野を少し上がったところから見た天橋立。線状に陸をつないでいるのが天橋立で、右側が内海、左側が外海の宮津湾です。

 

海沿いには住居も並び、お世話になった滞在先の目の前も海、でした。

海を臨み天橋立も目の前に。

 

訪問時期は、味噌づくりのタイミングではなかったので、まずはお味噌の原料を育てている圃場に伺いました。

写真は、舞ちゃんご夫妻と、そのお子さんたち。

お味噌の原料となる、無農薬栽培の大豆畑を背景に。

 

うんうん、大豆、よく育っているね、と。原料生産を担っている旦那さんの重ちゃんがチェック。

 

お米は、味噌用の米麹に適しているということで「日本晴れ」という品種を栽培。

そのものを食べてみると、食用米の例えばコシヒカリと比べると、かなりさっぱりとしていて、粘りや甘みが少ないのですが、麹の菌糸を張らせるのには適しているのだそうです。

  

稲刈りもそろそろ始まっている頃でしたが、遅いタイミングで収穫する品種のため、まだ稲穂は出ておらず。無農薬栽培なのに、雑草は目立たず、とてもきれいに管理されている印象でした。

 棚田の、面積はさほど広くない数枚の田んぼでの栽培。

ここからも、天橋立付近の海が見えます。

 

その後、まだ仕込み時期に入っていない、味噌蔵に立ち寄り。

 

 

 

世屋蔵さんという味噌蔵さんはそもそも、この地域の婦人会の方々が、みんなで味噌づくりをしていたのが発祥だそうで、それが50年ほど前のこと。

そこから、ある時期から先代の方が引き継ぎ、製品化をされたのだそうです。

 

それをまた彼らが引き継いだわけですが、ひととおり世屋蔵の味噌づくりを見れたかなー、というところで、先代が亡くなってしまったそうで、

そこからは彼らの試行錯誤。

原料のこと、価格のこと、デザインのこと、新たな挑戦のこと、などなど。

 

味噌づくりも農業も、すべてずっとやっていたというわけではない中、伝統を守り、古くからのお客さんにも愛される商品づくりをする。そして、新たな商品開発もする。

これは、本当にすごいことだなーと思いました。

 

建物や設備は、古くから使われている引き継いだものをそのまま使っているそうですが、

麹を作るための台は作り直したり、と、衛生管理にかなり気を配っておられました。

 

製造所を見せていただいた後に、お声かけがありました。

「あの、新たに挑戦したい味噌づくりの試作品があるんですけど、一緒に試食評価してもらえませんか?」と。

 

 

試作品として仕込んだ12種類のお味噌を、ご自宅に移して試食評価をする場に私も参加。

 

 

 

 

   

 味の評価基準をなにに置くか

次の改良に向けて、原料の成分バランスや食味評価をどのようにみるか、

など、日頃の私のお仕事の分野でもあるので、少々お手伝いを。

 

発酵と熟成の期間を必要とするお味噌は、仕込んでからすぐには結果が分からないし、

挑戦した方向が合っているのか、違うのか、見極めも難しい。

それでも、長年買ってくれているお客さんのニーズは壊してはいけない、そして、これからの世代に繋がる自分たちならではの商品開発もしたい。

 

こういう真面目な商品作りをしている人が造るお味噌は、やはり、とても美味しいです。

  

さて、農業のお話に戻りますが、世屋蔵さんの農業は、取り組み始めてまだまだ浅い期間とのことですが、近隣地域には、心強いお仲間さんたちがたくさんいるそうです。

 

ご紹介いただき、お米農家さんとして訪問させていただいた、ズングリファームさん。

 

完全無農薬栽培ということですが、まったく雑草はなく、整然としている田んぼ。

 

稲の生育を左右するのは、いかに、田植えをしてからすぐからの、雑草を生えないようにするか、なのだそうですが、これも、手のかかる手作業を実践されているそうで、

そういったことを色々と教えていただける間柄なのだとか。

 

ズングリファームさんは、ネット販売などはされていないそうですが、全国各地に多くのファンがいらして、田植えや稲刈りにもたくさんの方々が各地からいらっしゃるそうです。

 

天日干しをするのに準備されていた、はさがけ用のやぐら。

やぐらの材料も現地調達で、もう5年くらい使っているから、そろそろ新しくしないとなーとのことでした。

写真のイメージよりも、高さも幅もかなり大きい。

 

近い場所で信頼しあえる同世代とのコミュニティがあるのは、とても未来を感じます。

 こういった風に、現地に行ってはじめて、お味噌蔵を継いだことの意味、彼らが大事にしてゆきたいこと、が伝わってきました。

新たな挑戦もきっと、素晴らしいお味噌づくりに繋がるはずです。

世屋蔵Instagram @seyagura

ズングリファームInstagram @zungurifarm

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