京都府京丹後市弥栄町 黒部地区の醤油づくり

醤油づくりへのお誘い

 

京都の天橋立近くに住む友人から、

「近くの黒部地区っていうところで、8月31日に醤油の仕込みをするんですけど、見に来ませんか?」

というお誘いをいただいたのは、6月の中旬頃。

 

「友人の村の人たちが、各自で醤油麹づくりをして、後日みんなで出来上がった麹を一斉に仕込むんです。私も見学させてもらうので、一緒にどうですか?」

というお話。

 

各自で麹づくり?後日一斉に仕込む??

いまいちイメージは追いつかなかったものの、いつか自分でも醤油づくりをしてみたいと思っていたので、「ぜひに」と返事をしました。

 

喫禾了はお米をテーマにしていますので、切っても切れない相性の醤油はやはり大事な取材対象です。

醤油づくりの材料は、大豆、小麦、塩、そして醤油用の麹菌。

お米は原料に含まれませんが、和食には欠かせない調味料として、その工程を見てみたい、と思ったのでした。

 

どんな工程?

 

送られてきた工程を見ると、

■8月28日 醤油麹の仕込み

■8月29・30日 醤油麹の生育

■8月31日 樽仕込み

 

と、この4日間に立ち会わせていただくことになりました。

 

まずは初日、8月28日

 

夕方17:00ころ、伺ったのは、京丹後市弥栄町黒部で農業をされている、ハンズファームさんのご自宅の一角。

何組かのご家庭でゆでられた(または蒸された)大豆が集まってきていました。

各家庭で醤油麹を作って、と前述しましたが、ある程度数世帯ごとにまとまって作業をされるのが通例のようです。

 

その脇で、「これ麹ねー」と、煎って砕かれた小麦に、醤油用の麹菌を合わせる。

(のちに、麹菌を大豆と煎り小麦に撒くとき、撒きやすいように一部の煎り小麦と混ぜておくのだとか)

 

広い場所に、数か所に分けて広げられたむしろの上に、まずは煎って砕いた小麦、その上にゆでた大豆、とのせる。 

そして、そこに、煎り小麦と混ぜた麹菌をふる。 

それをよく手で混ぜる。

 

ちなみに、この作業をする日は、納豆を食べるのは厳禁です。

納豆菌はとても強いので、醤油麹の生育を邪魔してしまうため。

 

子どもたちも参加して、混ぜる。

 こういうところが、私としては目からうろこでした。

菌を扱う仕込みは、とても環境に気を遣って、作り手も参加人も限定して、というイメージがあったのですが、解放された場所で、自然界に存在する菌に力を借りる、ということが伝統として生きているようでした。

ただし、陽の入り具合(西日が当たるとまずい)とか、風の通り具合とか、かなり気遣いをされていました。

 

 そのあとは、三角形に山のように形を作り、それを紙とむしろで包み、発酵を待まちます。

これにて、初日の作業は終わり、と見せかけて、実はこの後の温度変化と発酵の具合が重要なのでした。

2日目 8月29日

 

早朝の7:00ころ、経過を見に再びハンズファームさんへ。

前日とはちょっと様子が違っていました。

白い粉状に見えるのは、麹菌の菌糸。

昨日からの作業で必要だったのは、温度が適温に上がり発酵が促進されること。

ただし、温度が上がりすぎてしまうと麹菌が死んでしまって、納豆菌が活発になるので、その見張りが肝心。

なんでも、小一時間目をはなした隙に、温度が上がって大豆がネバネバしはじめる、ということがあるそうです。

昨日の予測では、朝方の3時~4時ころがピークだったのが、この日はかなり気温が低く、発酵の進みが遅かったようで、

伺った7時ころがまさによきタイミングでした。

ということは、寝ずに様子を見てくださっていた、ということ。

伺ったタイミングの作業としては、育った麹菌をほぐすこと。

手でほぐして平らにならす。がこの日の作業でした。

 

3日目 8月30日

 

さらに翌日、伺ったのは午後3時ころ。

昨日ほぐして平らにならした麹はどうなっているか。

 

麹菌が増えて、全体が緑色になってきていました。

仕込みを迎える明日には、もっと緑になってるよ、と。

4日目 8月31日 いよいよ醤油仕込みの日

 

夕方の5時ころ、仕込み前に伺うと、昨日までの様子とはまた変わり、

抹茶チョコバーのようになっていました。

 

これをまたほぐす。

 

そして、いよいよ仕込みの場所に。

ぞくぞくと集まってくる、各世帯の醤油麹。

みなさん、米袋に醤油麹を入れて持ち寄り。 

その出来栄えを見分する、年配世代の重鎮がた。

その選定を終えると、いよいよ杉樽への投入が始まります。

 

分量の水と塩を溶かし、醤油麹、塩水、醤油麹、塩水、と、交互に投入してゆく。

すべて手作業。

 

事前にかたく注意されていたのは、このときに舞う緑色の麹菌を吸い込むと、高熱が出るから近くで吸わないように、ということ。

 

樽の上で仕込んでいらっしゃる方は、翌日は熱が出ること前提なのだそうです。

このあと、醤油の完成までには熟成期間2年間。

仕込んでから2カ月の間は、毎日持ち回りで世帯ごとに、1日一回樽を撹拌するのだそうです。

 

不躾なことを聞いてしまいました。

 

「もし、さぼっちゃった人がいたらどうするんですか?」

 

・・・・笑

「そこは信頼ですよ」

 

すみません、場にそぐわない質問をしてしまいました。。

 

こういう、地域の人たちが一緒になって、何十年も綿々と、どんなもので何を作るか、を共有している食文化は、本当に貴重だと感じました。

これが、特別なある一面でなく、さまざまな継承文化の当たり前のこと、になったら、とてもすごいことだなぁと思いました。

実際に、日本各地にはいろいろな実例があるのかもしれません。

繋いでゆく、という現場は、とてもチカラがあります。

そこにいる方々にとってそれが、当たり前として受け入れられていることがとても大事なことだなぁと、

醤油の仕込み方だけではなくて、大きな学びがあった数日間でした。

ちなみに、仕込み中のこぼれ話。

この醤油仕込みは、黒部の地域で50年(と言っておられた記憶)続いているそうですが、

工程についてはすべて口伝。ベテランの方々が若手に指南をしながら伝えてゆくのだそうです。

それを、今後のために、若手の方々が中心となってマニュアル化しよう、というお話をされていました。

それにも関わる仕込み中の一幕。

樽に仕込む前の醤油麹は、粗くほぐすか、なるべくこまかくほぐすか

ベテラン勢は、「なるべくこまかくほぐす」と。なぜならば、ずっとそう教えられてやってきたから。(理由はわからず)

若手勢は、「理論的に理由がはっきりしていないならば、粗くほぐしたほうが、菌が散らなくてよいのではないか」

その場ではなかなか結論が出ないということで、今度、本職の醤油屋さんに教えを乞おう。

と話し合いされていました。

世代を経ることで、醤油づくりの伝統がアップデートされてゆく場面、だったのでした。

 

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